〒322-0039 栃木県鹿沼市東末広町1940-12 シマダヤビル3F(駐車場:あり)
受付時間
企業が「人事評価制度を導入したのに、まったく機能していない」と感じるケースは少なくありません。制度を整備しても、現場で形骸化してしまうのはなぜでしょうか。形だけの評価では、人材のモチベーション向上や生産性向上といった本来の目的を果たすことはできません。本稿では、評価制度が形骸化する主な要因と、社労士が果たすべき「運用定着支援」の実務的な関与について解説します。
多くの企業では、導入当初に立派な評価シートを作成しますが、内容が抽象的で、現場で具体的に何を評価すべきかが分からないケースが多く見受けられます。
「主体性」「協調性」「成果への意識」などの言葉は一見わかりやすいようで、実際には評価者によって解釈が異なり、結果的に“好き嫌い評価”に陥ります。
現場の職種特性や業務プロセスを反映させないまま導入された制度は、従業員にも評価者にも納得感を与えず、「結局、前と変わらない」と形骸化していきます。
評価制度の設計そのものよりも、運用段階で最も大きな壁となるのが「評価者の理解不足」です。
「部下に低い点をつけるのは可哀そう」「何を根拠に評価して良いか分からない」といった声は少なくありません。評価基準を具体的に理解し、フィードバックを建設的に行うスキルがなければ、制度は形だけの存在になります。
評価者研修を形式的に一度実施して終わり、という企業では、運用のばらつきが生まれ、評価の信頼性が損なわれていきます。
「評価しても給与に反映されない」「面談してもその後の改善策がない」と感じる従業員は、やがて制度そのものに関心を失います。
評価はあくまで“手段”であり、目的は人材の成長と組織の活性化にあります。
処遇(昇給・賞与・昇格)や教育計画と連動していない制度は、努力しても報われないという不公平感を生み、組織への信頼を低下させてしまいます。
制度を定着させるには、まず「現場にとって意味のある基準」に見直すことが必要です。
職種ごとに行動レベルで定義し、たとえば以下のように具体化します。
抽象的:「主体的に行動できる」
具体的:「上司の指示がなくても、日常業務の改善提案を月1回以上行っている」
このような定義があれば、評価者も判断しやすく、被評価者も「何をすれば評価されるか」が明確になります。
評価面談を“年2回の行事”にせず、四半期ごと・月ごとに「小面談」を設定することで、上司と部下のコミュニケーションが自然に習慣化します。
短いサイクルでの振り返りは、行動の改善に直結し、評価結果を待たずに成長支援が可能になります。
面談の記録は簡易フォーマットで残し、上司間で共有することで、評価の一貫性を確保します。ここで社労士が第三者として運用管理に関与すると、客観性と継続性が保たれやすくなります。
制度を機能させるには、評価結果を単に数値で示すだけでなく、「昇給基準」「教育方針」「配置転換」など、経営上の意思決定とつなげることが不可欠です。
たとえば、「B評価が2回続いた社員は、次の研修に必ず参加」「S評価の社員は、次期リーダー候補として個別面談実施」など、具体的なアクションと連動させます。
こうした仕組みを継続運用できるよう、社労士が“制度管理者”として定期モニタリングを行う体制が理想です。
評価制度は導入よりも運用が難しい制度です。設計時の完成度より、現場で使いこなされる仕組みかどうかが成否を分けます。
社労士は、労働法令に基づいた制度整合性を確保するだけでなく、「現場で動く制度設計」と「運用の習慣化支援」を担う専門家です。
実際、制度導入後3か月・6か月・1年といったタイミングで、社労士が面談の進捗確認や評価結果の傾向分析を行うことで、制度が形骸化する前に修正が可能になります。
評価制度を定着させるためには、評価者の理解と納得が不可欠です。
社労士は第三者の立場で評価者研修を行い、「公平な評価」「具体的なフィードバック方法」「記録の残し方」などを実践的に指導します。
特に医療・福祉・サービス業のように管理者層がプレイングマネージャーである組織では、評価の進め方に迷いが生じやすく、社労士の関与が有効です。
現場の“言いにくいこと”を代弁し、評価基準の再設定を提案できるのは、社外専門家ならではの役割です。
評価制度を給与や賞与に連動させる際には、労働契約や就業規則との整合性が重要になります。
たとえば、評価結果を昇給の基準とする場合、評価結果の開示や手続きの透明性が不十分だと、トラブルの火種になります。
社労士は、制度と規程・運用フローを法的観点から点検し、万一の紛争リスクを最小限に抑えつつ、経営方針に合った仕組みを整備します。
制度を導入しても、運用の手間ばかりが増え、「評価シートの記入が面倒」「面談時間が取れない」といった不満が噴出することがあります。
これを防ぐためには、最初から“完璧な制度”を目指すのではなく、“試行錯誤を前提とした運用”を設計することが大切です。
たとえば、初年度は主要職種のみに適用して試験運用を行い、問題点を洗い出したうえで翌年度に全社展開する。こうした段階的な導入であれば、現場の負担感を抑えつつ、定着率が高まります。
社労士はこのプロセスにおいて、経営層と現場の“緩衝役”として、意見のすり合わせと制度改善をサイクル化させる役割を担います。
評価制度を定着させる最終段階は、「制度」ではなく「文化」への転換です。
つまり、「評価されるために頑張る」ではなく、「成長するために振り返る」という文化を組織に根づかせること。
制度がその文化を支えるツールとして存在するとき、初めて“形骸化しない仕組み”となります。
社労士が関与する意義は、単に制度を作ることではなく、「組織に評価文化を根づかせる」ことにあります。
経営理念・人材戦略・現場運用をつなぎ、人が育つ環境をつくる——その伴走者こそが、真の“実務型社労士”といえるでしょう。
評価制度の形骸化は、「仕組みの不備」よりも「運用の習慣化不足」によって起こります。
制度を整備するだけでは、人は動きません。評価の意図を理解し、日々の業務と結びつけ、上司と部下の信頼関係を積み重ねていくことで、初めて制度は機能します。
社労士が運用定着まで関与することで、制度は“使われる制度”に変わります。
経営の意思と現場のリアルを橋渡しし、企業の「人づくり」を支える評価制度へ。
それが、持続的成長を実現するための第一歩です。
特定社会保険労務士 鈴木教大
社会保険労務士法人レクシード
https://rexseed.jp