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労務DX推進における社労士の
新たな役割

近年、「労務DX(デジタルトランスフォーメーション)」という言葉を耳にする機会が急増している。勤怠管理や給与計算、年末調整など、従来は紙やエクセルで行われてきた業務をクラウド化・自動化する動きが加速し、効率化と生産性向上を同時に進めようとする企業が増えている。一方で、この流れの中で社労士の役割も大きく変化している。単なる手続き代行者から、デジタル化を推進する“労務戦略パートナー”へと変わりつつあるのだ。

私が顧問として関わる医療法人の一つでは、紙の勤怠表を手書きで回収し、月末に事務長が集計するという非効率な運用が長年続いていた。スタッフの勤務時間修正や残業申請も曖昧で、法令遵守以前にデータの整合性を保つことが難しい状況だった。そこで、勤怠管理システムの導入を提案し、まずは院内の勤務パターンを整理。看護師、受付、リハビリスタッフなど職種ごとに勤務区分を明確に設計した上で、クラウドシステムへ移行した。導入後は、時間外労働の把握が正確になり、休憩時間の管理も可視化。経営者からは「これまで感覚で処理していたものが、数字で見えるようになった」と大きな反響をいただいた。

このように、DX化の第一歩は「正確な情報の一元化」である。労務の世界では、デジタル化によってトラブルを未然に防ぐ仕組みをつくることが可能だ。しかし、その設計を誤れば逆効果にもなり得る。たとえば、システムの設定を法令や就業規則と整合させずに運用した結果、残業計算が誤って是正勧告を受けたケースも存在する。だからこそ、社労士が法的観点から初期設計に関与することが不可欠なのである。

また、DX化によって生まれるデータを“経営判断に活かす”視点も求められている。私が支援した製造業の顧問先では、勤怠データを分析することで、特定部署の残業が突出して多いことが判明した。ヒアリングを重ねた結果、作業工程の偏りと人員配置の不均衡が要因だった。そこで、シフトパターンを再構築し、属人的な業務分担を見直したところ、残業時間が月平均で25%削減されただけでなく、従業員の満足度も向上した。DXは単なる効率化のためのツールではなく、職場改善を科学的に進めるための「経営インフラ」になりつつある。

一方で、現場には「デジタル化=冷たい」「人のつながりが薄れる」という懸念も根強い。特に医療・介護など人を支える職場では、システム導入に抵抗を感じるスタッフも少なくない。ある介護事業所では、勤怠打刻をスマホで行う新システム導入時に、「監視されているようで嫌だ」といった不満が噴出した。私は管理者と面談を重ね、「目的は監視ではなく、スタッフを守るための仕組みづくりである」というメッセージを繰り返し伝えた。打刻データを用いて、残業削減や休暇取得促進を実際に実現してみせることで、徐々に現場の理解を得ることができた。DX推進には「人の納得」を得るための丁寧な説明と伴走支援が欠かせない。

さらに、DX時代の社労士には「ツールを選び、使いこなす力」も問われる。勤怠、給与、年末調整、マイナンバー管理といった各種システムをどう連携させるか、情報セキュリティをどう担保するか――これらは法務とITの両面を理解していなければ判断できない。私自身、クラウド導入支援に携わる中で、ITベンダーと経営者の“言葉のギャップ”を埋めることが多い。経営者は「コストを抑えたい」、ベンダーは「機能の多さを強調する」。その間で、現場の運用実態に即した最適解を導くのが社労士の役割だと感じている。

そして今後、AIやRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の導入も進む中で、社労士の業務は「単純な入力」から「データの意味を読み解く助言」へと進化するだろう。勤怠・給与データをもとに離職リスクを予測したり、労働時間の傾向から人員配置を最適化したりすることが、日常的に求められる時代が来る。つまり、社労士は“データで経営を支える専門家”としての新しい立ち位置を築く必要がある。

私が顧問として関わる複数のクリニックでは、DX化により、院長が経営数字と労務状況をリアルタイムで把握できるようになった。従業員の勤怠・有給・時間外の状況をスマホ一つで確認できるようになったことで、判断スピードが飛躍的に向上した。結果として、採用計画や人員配置の決定が迅速化し、労務トラブルの芽も早期に摘み取れるようになった。DXの恩恵は「業務効率化」にとどまらず、「経営リスクの低減」にも直結する。

今後、労務DXの推進において社労士に求められるのは、システム操作の知識だけではない。経営理念や組織文化を踏まえたうえで、最適な運用設計を行う“翻訳者”としての役割である。人事・労務の専門家として、テクノロジーと人の間をつなぐ橋渡し役を果たすこと。それが、これからの社労士に期待される新しい使命だと考える。

 

執筆:特定社会保険労務士 鈴木教大(社会保険労務士法人レクシード)

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