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経営者自身の退職金対策としての民間制度活用法

企業経営者の多くが従業員の退職金制度は整備している一方で、「自分自身の退職金」については後回しにしている現実があります。特に中小企業では、経営者の報酬設定が最優先事項ではなく、資金繰りや社員への給与支払いを優先する傾向が強いため、いざ引退を迎えた際に老後資金の準備が不十分であるケースが少なくありません。今回は、社労士として顧問先企業を支援してきた経験を踏まえ、経営者自身の退職金対策における民間制度の活用方法を解説します。


1. 経営者にも必要な「退職金設計」という発想

経営者の退職金は、いわば「長年の経営努力の成果の取り崩し」です。企業価値を高めてきた経営者が、事業承継や引退を迎える際に適切な形で報われることは自然なことです。
しかし、中小企業では税務上の損金算入や資金繰りの観点から、退職金を「出したくても出せない」状況に陥ることが多く見られます。これを防ぐためには、現役時代から「退職金を積み立てる仕組み」を構築することが不可欠です。


2. 小規模企業共済制度の活用

最も代表的な制度が「小規模企業共済」です。中小機構が運営する公的制度で、個人事業主や法人の役員が加入でき、掛金は全額所得控除の対象になります。
たとえば、月7万円を20年間積み立てた場合、総額1,680万円。積立額に応じて将来の共済金を受け取ることができ、受取時は退職所得扱い(または公的年金等控除の対象)として税負担も軽減されます。

私の顧問先でも、後継者への事業承継を控えた社長に対し、この制度を早期に導入いただいたケースがありました。当初は「毎月の掛金が負担」との声もありましたが、5年後には積立の実感を得て、「もし導入していなかったら今頃不安で眠れなかった」と感謝の言葉をいただきました。


3. 生命保険を活用した退職金準備

民間の生命保険も、経営者退職金の積立に有効な手段のひとつです。特に「長期平準定期保険」や「逓増定期保険」を活用し、解約返戻金を退職時に充当する方法は広く使われています。
法人契約による保険料の一部損金算入や、解約時の受取額を退職金原資に充てる設計が可能であり、税務と資金計画の両面でバランスをとることができます。

顧問先のある製造業の経営者は、将来の引退を見据えて10年前から法人保険を導入しました。経営が安定している年に利益調整を兼ねて積み増しを行い、引退時には退職金原資として2,000万円以上の準備が整いました。保険商品を単なる「節税策」と捉えず、「経営者の安心のための資金計画」として活用することが肝要です。


4. 企業型確定拠出年金(DC)制度の導入

近年、注目を集めているのが「企業型確定拠出年金(企業型DC)」です。役員も加入対象に含められるため、経営者自身の退職後資金を計画的に積み立てることができます。掛金は全額損金算入が可能で、受け取り時も退職所得扱いとできるため、税効率が高い仕組みです。

私は以前、従業員数20名規模のIT企業の顧問として、経営者主導で企業型DCを導入した事例を担当しました。
導入当初、従業員からは「投資は怖い」との声もありましたが、セミナーを実施し理解を深めた結果、社内の福利厚生意識が向上。経営者自身も老後資金の見通しが立ち、結果的に役員報酬を安定的に設計できるようになりました。


5. 民間制度活用の際の留意点

経営者退職金対策として民間制度を活用する際、重要なのは「制度の組み合わせとバランス」です。
小規模企業共済、法人保険、企業型DCのいずれも優れた制度ですが、それぞれに特徴とリスクがあります。共済は途中解約で元本割れの可能性があり、保険は返戻率や会計処理上の制約、DCは運用リスクを伴います。
したがって、単独で判断せず、税理士・社労士・金融機関などの専門家が連携して設計することが望ましいです。

また、退職金制度の設計は「会社の将来像」と密接に関わります。事業承継、M&A、役員交代などのライフイベントに合わせて、定期的に制度の見直しを行うことが重要です。特に経営者が複数いる場合(夫婦経営など)は、各自の役割と退任時期を明確化しておくことが、トラブル防止にもつながります。


6. 社労士として感じる課題と提言

顧問先を支援していて感じるのは、「経営者ほど自分の将来設計を後回しにしている」という現実です。
「会社がうまくいけば自分も大丈夫」と考えがちですが、退職金は経営の成果の象徴であり、労務上の仕組みとしても整理しておくべき要素です。
特に後継者へ事業を引き継ぐ際には、経営者個人の資産と会社の資金を明確に分け、適正な金額で退職金を支払うことが、税務上も労務上も重要になります。

私自身、ある医療法人の理事長から「職員の退職金はあるが、自分の老後が不安だ」と相談を受けたことがあります。法人としての積立余力を考慮し、まずは小規模企業共済の上限掛金からスタート。その後、利益水準に応じて法人保険を併用する設計を提案しました。数年後、その理事長は「ようやく将来を安心して考えられるようになった」と笑顔を見せてくださいました。
このように、経営者が自分自身の老後資金を整えることは、決して贅沢ではなく「経営リスクの一部をコントロールする行為」だといえます。


7. まとめ

経営者の退職金対策は、「会社の財務戦略」「税務対策」「個人のライフプラン」が交わる分野です。
小規模企業共済・法人保険・企業型DCといった民間制度を効果的に活用すれば、節税と資産形成の両立が可能になります。
ただし、重要なのは「制度を導入すること」ではなく、「自社に合った設計を続けること」です。
社労士としては、経営者自身の将来を守る仕組みづくりを支援しながら、事業の安定と次世代への円滑なバトンタッチを実現していくことが使命だと感じています。


 

執筆:特定社会保険労務士 鈴木教大(社会保険労務士法人レクシード)

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