〒322-0039 栃木県鹿沼市東末広町1940-12 シマダヤビル3F(駐車場:あり)

受付時間

9:00~17:00
定休日:土曜・日曜・祝日

お気軽にお問合せ・ご相談ください

0289-77-7011

民間保険を活用した退職金制度の
メリットと仕組み

退職金制度は、従業員の長期勤続を促し、安心して働ける環境をつくるうえで欠かせない仕組みです。しかし、実際に制度を整備しようとすると、「積立方法がわからない」「将来の支払いに備える余裕がない」「運用の仕方が不安」といった声を多く耳にします。特に中小企業では、退職金を社内留保で対応しているケースがまだ多く、いざ退職が重なった際に資金繰りが厳しくなるという問題も起こりがちです。

こうした課題を解消する有効な手段の一つが、民間保険を活用した退職金制度の導入です。代表的なものとしては、生命保険会社が提供する「養老保険」や「長期平準定期保険」「企業型年金保険」などがあり、これらを退職金の原資として活用する企業が増えています。

まず仕組みを整理すると、企業が契約者となり、被保険者を役員や従業員とする形で保険契約を締結します。保険料を会社が支払い、満期や退職時に保険金・解約返戻金を退職金として支給するという流れです。法人契約とすることで、一定の範囲内で損金算入が認められ、税制面でも有利に活用できる点が大きな特徴です。

この制度の最大のメリットは「計画的な積立」と「税務上の優遇」が両立できることです。社内留保では、どうしても他の支出に流用されやすく、退職金原資が確実に積み立てられないという問題が生じます。一方、保険商品を活用すれば、契約時点で積立のルールが明確になり、会社としての将来負担を平準化することが可能です。また、保険料の一定割合を損金処理できるため、実質的なコストを抑えつつ将来支給の準備が進められます。

さらに、経営者や役員自身の退職金対策としても有効です。中小企業では、経営者個人の退職金を会社資金から一括で支払うことが多く、決算期に多額の現金を用意できずに困るケースが少なくありません。私の顧問先でも、後継者への事業承継を控えた経営者が「自分の退職金をどう準備すべきか」と相談されたことがありました。そこで、保険を活用した退職金準備制度を提案し、法人契約で計画的に積み立てる仕組みを導入しました。その結果、事業承継時の資金負担を大幅に軽減でき、さらに保険金を活用して退職金と事業承継資金を同時に賄うことができました。

もちろん、導入にあたっては注意すべき点もあります。保険商品によっては返戻率が年々変動するため、契約内容を十分に理解しておく必要があります。また、加入目的があくまで退職金積立であることを明確にし、経理処理や退職金規程との整合性をとることも重要です。特に、退職金規程に「支給基準」「支給条件」「算定方法」を明記しないまま保険契約を行うと、支給額に一貫性がなく、トラブルの原因となります。

ある顧問先の製造業では、役員だけが保険に加入しており、従業員の退職金制度が存在しませんでした。従業員側から「自分たちは対象外なのか」と不満が出始め、社内の信頼関係が崩れかけたことがありました。そこで私は、職種・勤続年数に応じた支給基準を明文化し、役員・従業員の双方を対象とする新たな退職金規程を策定。これに連動した保険積立を開始しました。結果的に「自分たちの将来も会社が考えてくれている」という安心感が生まれ、離職率が下がるという効果も得られました。

また、民間保険を利用する退職金制度の導入は、企業の財務面でもプラスに働きます。積立金が外部に移されることで、内部留保に比べ資金の使途が明確になり、資金繰り計画の精度が上がります。経営者が短期的な資金需要に流されにくくなり、経営の安定性が増すというのは見逃せないメリットです。

一方で、「保険で積み立てておけば安心」と思い込み、定期的な見直しを怠るケースも見られます。金利や返戻率の変化、税制改正などの影響で、当初の設計と乖離することがあるため、3~5年に一度は契約内容を点検することが望ましいです。社労士としても、顧問先に対して「制度運用の定期チェック」を提案し、退職金制度全体が現状に即して機能しているかを確認することが必要だと感じています。

最近では、保険会社の商品ラインナップも多様化しており、死亡保険金や年金受取機能を付加したもの、役員退職時のリスクヘッジを兼ねたタイプなど、選択肢が広がっています。企業の規模や経営方針に合わせて、柔軟に設計できる点も魅力です。

総じて、民間保険を活用した退職金制度は、「安心」「節税」「計画性」という3つの効果を同時に実現できる優れた仕組みです。特に中小企業においては、制度が存在するかどうかが従業員の定着意識に大きく影響します。単なる“福利厚生の一環”ではなく、“経営の安定装置”として位置付けることが重要です。

退職金は“将来への感謝”を形にする制度であると同時に、企業にとっても“信用力を高める資産”です。民間保険の活用によって、退職金を負担ではなく「戦略的投資」に変えることができます。企業の成長フェーズや財務状況に応じて最適な設計を行い、将来に備える制度として積極的に導入を検討すべきでしょう。

 

執筆:特定社会保険労務士 鈴木教大(社会保険労務士法人レクシード)

お気軽にお問合せ・ご相談ください

お電話でのお問合せ・ご相談はこちら
0289-77-7011
受付時間
9:00~17:00
定休日
土曜・日曜・祝日