〒322-0039 栃木県鹿沼市東末広町1940-12 シマダヤビル3F(駐車場:あり)

受付時間

9:00~17:00
定休日:土曜・日曜・祝日

お気軽にお問合せ・ご相談ください

0289-77-7011

実際に起きたハラスメント相談の「社内初動」事例

企業におけるハラスメント対応は、発生そのものを防ぐ「予防」と、発生した後の「初動」が極めて重要である。特に初動対応を誤ると、被害者・加害者双方の不信感を招き、組織全体の信頼を損なうだけでなく、企業の法的リスクが一気に高まる。今回は、私が顧問を務める企業で実際に起きた「社内初動」の事例をもとに、その重要性と対応のポイントを考えてみたい。

ある製造業の企業で、40代の女性社員から「上司の言動に精神的苦痛を感じている」との相談が社内窓口に寄せられた。上司は長年勤続しており、実績もある人物で、会社としても信頼を寄せていた。一方で、女性社員は入社2年目。上司の指導が厳しく感じられ、日常的に人格を否定するような発言が続いていたという。相談を受けた人事担当者は戸惑いながらも、すぐに上司本人へ確認を行ってしまった。結果、上司は「そんなつもりはない」「自分の言い方が悪いとは思わない」と反発。被害を訴えた女性社員は「会社は自分を守ってくれない」と感じ、数日後には体調を崩し、休職に至った。

このケースでは、相談直後の「社内初動」にいくつもの課題があった。第一に、相談内容の機密保持が徹底されなかったこと。第二に、被害者への心理的ケアよりも、事実確認を優先してしまったこと。第三に、相談窓口担当者がハラスメント対応の基本手順を理解していなかったことである。

このような状況を受け、私は社労士として企業側に次のような対応を提案した。まず、被害を訴えた社員に対して、会社として真摯に話を聞く姿勢を示すこと。加害者への確認は即時に行わず、第三者的な立場で事実関係を整理する時間を確保するよう助言した。また、相談内容を上司本人に伝える前に、社外の専門家(私を含む)を交えて事案の性質を分析。パワーハラスメントに該当する可能性が高いと判断し、正式な調査委員会を立ち上げることになった。

調査の過程では、同じ部署の複数社員へのヒアリングを実施。その結果、指導の範囲を超えた言動が継続的にあったことが確認された。会社は懲戒処分を検討したが、同時に加害者の再教育と職場復帰支援の両面からの対応を取る方針を決定。処分一辺倒ではなく、再発防止を重視した運用とした。

ここで重要なのは、「社内初動が二次被害を防ぐ最大の鍵である」という点だ。多くの企業で見られるのは、相談を受けた瞬間に「真偽を確かめよう」と動くこと。しかし、ハラスメントの多くは“感じ方”や“受け取り方”が中心となるため、初期段階では事実の白黒をつけることよりも、相談者が安心して話せる環境づくりが優先されるべきである。

私はこの事案以降、企業に対して「初動マニュアル」の整備を強く推奨している。たとえば次のような流れだ。
①相談を受けたら、まず事実確認よりも感情の受け止めを優先する。
②内容は必ず記録し、相談者の同意なく第三者に共有しない。
③社外専門家(社労士・弁護士など)に速やかに連絡する。
④調査を行う際は、客観性を担保するために複数名での実施を基本とする。

こうした仕組みを整えることで、相談対応の属人化を防ぎ、社内で起きる「火消し型対応」から「信頼回復型対応」へと転換することができる。

この企業では、最終的に被害を訴えた女性社員が復職し、上司も管理職研修を受けた上で別部署に異動となった。時間はかかったが、今では部署全体の雰囲気が改善され、従業員アンケートでも「相談しやすい職場になった」との声が増えた。経営者も「社外の力を入れて冷静に判断してもらえたことが大きかった」と話している。

ハラスメントは、企業にとって避けて通れない課題である。特に小規模企業では、相談窓口が形式的になりがちで、初動対応が感情的・属人的になりやすい。だからこそ、社労士などの外部専門家が関与し、制度的・実務的な観点から初動対応を支えることが、リスク管理の核心といえる。

私が顧問として関わる中で感じるのは、初動対応の質が組織文化を映し出すということだ。相談があった際に、会社が「被害者を守る姿勢」を示せるかどうか。その一瞬の対応が、社員の信頼を決定づける。たとえ未熟でも誠実であること、迅速であること、そして記録を残すこと。この3点を実行できる企業こそが、最終的にトラブルを最小限に抑え、信頼を積み上げていく。

ハラスメントの初動対応は、単なる危機管理ではない。組織が「人を大切にしている」ことを行動で示す機会でもある。もし今、社内で対応体制に不安があるなら、形式的な規程整備にとどまらず、実際に機能する仕組みづくりを見直してほしい。初動対応が変われば、組織の未来も変わる。

 

執筆:特定社会保険労務士 鈴木教大(社会保険労務士法人レクシード)

お気軽にお問合せ・ご相談ください

お電話でのお問合せ・ご相談はこちら
0289-77-7011
受付時間
9:00~17:00
定休日
土曜・日曜・祝日