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パワハラ・セクハラ・マタハラの境界線を正しく理解する

職場でのハラスメント対策は年々注目を集めていますが、実務の現場で感じるのは「何がハラスメントに該当し、何が指導の範囲内なのか」という“境界線”の難しさです。特に、パワハラ・セクハラ・マタハラはそれぞれ性質が異なるにもかかわらず、感情や価値観によって判断が揺れやすい領域です。今回は、社労士として顧問先で実際に対応してきた事例を踏まえながら、この「線引き」について考えてみます。


パワハラの境界線:目的と手段のバランス

パワーハラスメントとは、優越的な立場を背景に、業務の適正な範囲を超えて他人に精神的・身体的苦痛を与える行為を指します。典型的には、暴言・無視・過度な叱責・人格否定などが挙げられます。しかし、業務上の指導や改善要求までも「パワハラだ」と捉えられるケースも少なくありません。

私の顧問先の製造業の現場で、若手社員に対して上司が厳しく注意を続けた結果、「パワハラを受けている」と訴えが出たことがありました。内容を確認すると、確かに言葉が強く、感情的な叱責が続いていましたが、根本には「安全ルールを守らない社員を何とか育てたい」という意図がありました。
ここで重要なのは、**「業務上の指導目的」と「言動の適正さ」**を分けて考えることです。目的が正しくても、伝え方が威圧的であれば結果としてハラスメントに発展します。私はこのケースで、上司に対して「指導の場ではなく、成長支援の場を意識する」よう指導し、具体的な声かけの方法を研修形式で再構築しました。その結果、コミュニケーションが改善し、職場の雰囲気も大きく変化しました。


セクハラの境界線:相手の受け止め方が基準

セクシュアルハラスメントは、性的な言動により相手に不快感や不利益を与える行為です。ここで問題となるのは、**「加害者の意図」ではなく「被害者の受け止め方」**が基準となる点です。
ある顧問先のクリニックでは、院長が「冗談のつもりで」スタッフの服装に関するコメントをしたことが、セクハラ相談として社外窓口に寄せられた事例がありました。本人に悪意はなくても、上下関係の中で発言を受けた側は「拒否できない雰囲気の中で侮辱された」と感じていたのです。

このケースでは、まず院長に「相手がどう感じるか」を中心に考えるよう指導し、全職員を対象にセクハラ防止研修を実施しました。特に、異性への不用意なコメントやボディタッチが業務上不要であることを明確化し、具体例を共有することで、全体の意識を変えていきました。セクハラは悪意の有無ではなく、「職場の環境を害したかどうか」で判断される点を周知することが極めて重要です。


マタハラの境界線:業務上の配慮と公平性のバランス

マタニティハラスメントは、妊娠・出産・育児などを理由に不当な扱いを受けることを指します。ここでの境界線は、「業務上の調整・負担分担」と「不利益取扱い」の違いです。
例えば、妊娠中の職員に夜勤免除を行う場合、他の職員の負担が増えることがあります。その不満を背景に、「配慮しすぎでは」「甘えている」といった声が上がると、今度は職場の空気がマタハラ的圧力を生むこともあります。

顧問先の介護施設で、育児短時間勤務者への不満が高まり、現場の雰囲気が悪化したケースがありました。私はまず、制度の趣旨を管理職全員に再説明し、業務シフトの見直しを提案しました。また、他の職員への感謝の可視化(掲示板やミーティングでの共有)を取り入れ、「互いに支え合う職場づくり」に意識をシフトしました。その結果、当事者も職場全体も前向きな関係を築けるようになりました。


境界線を誤る職場に共通する問題点

ハラスメントの境界が曖昧な職場には、いくつかの共通点があります。
第一に、「何がハラスメントに該当するのかを明文化していない」こと。就業規則やハラスメント防止規程が抽象的なままでは、判断が現場任せになってしまいます。
第二に、「相談ルートが機能していない」こと。社内窓口があっても、相談者が安心して話せる雰囲気でなければ意味がありません。実際、当法人では外部相談窓口を導入した企業で、相談件数が一時的に増えた後、職場トラブルが大幅に減少した例が多く見られます。これは、早期発見・初動対応の仕組みが整った証拠です。
第三に、「管理職教育の不足」です。指導とハラスメントの線引きは、管理職自身が理解していなければ現場では機能しません。私は顧問先で必ず、年1回のハラスメント研修とケーススタディを実施しています。実例をもとに「どの行為が指導の範囲で、どの言葉が越線になるか」を共有することが、実効性ある予防策です。


社労士としての視点:線を引くのではなく“共通認識を作る”

社労士として多くの職場を見てきて感じるのは、「境界線を引くこと」よりも「全員でその線を理解すること」が本質だという点です。法律上の定義はあっても、現場では価値観・年齢・文化背景が異なる人々が共に働いています。だからこそ、「お互いを尊重する」という共通土台を築くことが最も重要です。

そのために私は、顧問先で以下の三つを推奨しています。

  1. 明確なルールと研修:社内規程にハラスメントの具体例を明記し、定期的に学び直す。

  2. 外部相談窓口の設置:公正・中立な第三者が相談を受ける仕組みを整える。

  3. コミュニケーション文化の再構築:感情的指導ではなく、成果と行動に焦点を当てた対話を徹底する。

これらを実践することで、ハラスメントの“予防文化”が自然と根づいていきます。境界線を守るとは、単に「やってはいけないことを避ける」ことではなく、「お互いが安心して働ける職場を維持する」という組織の責任を果たすことなのです。


 

執筆:特定社会保険労務士 鈴木教大(社会保険労務士法人レクシード)

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