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ハラスメント防止法制の整備以降、多くの企業が「相談窓口」を設置しています。しかし、実際に運用が始まると、社内だけでは解決が難しい場面が少なくありません。特に、相談対応後の「是正・再発防止策」をどう具体化するか、そして、会社としてどのようにリスクマネジメントを図るかが大きな課題となります。ここで重要となるのが、外部相談窓口と顧問社会保険労務士との連携体制です。
私はこれまで多くの企業でハラスメント防止体制の整備を支援してきましたが、「外部窓口を導入しただけで安心してしまう」ケースを何度も目にしてきました。外部窓口は、相談者が安心して声を上げるための重要な受け皿です。しかし、それだけでは「会社としての対応」は成立しません。通報内容を受け取った後、事実確認・関係者ヒアリング・再発防止策の策定といった具体的なプロセスに落とし込む必要があります。その部分を設計し、実行段階で企業と伴走するのが顧問社労士の役割です。
例えば、ある医療法人では、職員からの匿名相談を外部窓口が受けたものの、院内で誰がどこまで把握してよいのかが明確でなく、結果的に院長への報告が遅れてしまったことがありました。このケースでは、私が関与し、報告ルートと初動フローを整理しました。具体的には、外部窓口から社労士(第三者)に一次報告が入り、内容をリスクレベル別に整理した上で、経営層と共有する体制を構築しました。こうした「中継点」を設けることで、機微な情報の取り扱いと迅速な初動の両立が可能になりました。
外部窓口と顧問社労士の連携には、三つの重要なポイントがあります。
第一に「情報区分の明確化」です。すべての相談内容を経営層に共有すべきではありません。初期段階では、相談者の保護を最優先にしつつ、法的リスクが高い案件のみ報告対象とするルールを設けることが大切です。顧問社労士が間に入ることで、感情的な反応や不適切な対応を防ぎ、事実関係の整理を冷静に行うことができます。
第二に「役割分担の明確化」です。外部窓口は“傾聴”と“受理”が中心であり、調査・是正勧告までは行いません。一方、顧問社労士は、労働法令や就業規則の観点から「会社として取るべき対応」を提言する立場です。両者が独立しつつも連携する仕組みが、信頼性の高い体制を支えます。
第三に「定期的な連携ミーティング」の実施です。相談内容の傾向を分析し、職場風土や管理職教育へのフィードバックを行うことが、再発防止には不可欠です。顧問社労士が窓口運用のデータをもとに、実効性ある改善提案をすることで、制度が「形骸化」することを防げます。
ある製造業の顧問先では、外部窓口の導入当初、社員からの相談が相次ぎました。中には「上司の指導が厳しい」といったグレーゾーンの内容も多く、経営側が戸惑う場面もありました。私は社労士として、相談傾向を分析し、教育不足に起因するケースを抽出。管理職研修のテーマを「伝え方・叱り方のマネジメント」に設定し、半年間で再発件数を半減させることができました。外部窓口が“問題の芽”を拾い上げ、顧問社労士が“組織改善”へとつなげた好例です。
また、ハラスメント以外にも、労務トラブルの初期兆候を把握できるという利点もあります。例えば「長時間労働」「給与の不満」「上司とのコミュニケーション不足」といった声は、離職や訴訟の火種になることが多いものです。外部窓口がそのサインを拾い、社労士が制度面・運用面から改善策を講じることで、企業全体のリスク低減につながります。
顧問社労士として感じるのは、経営者が「何を知らされていないか」を可視化できる点の価値です。社内の人間関係や上下関係の中では、どうしても声が上がりにくい現実があります。外部窓口はその“沈黙”を破る仕組みであり、社労士はそこから得た情報をもとに、制度改善や教育施策に反映させる「翻訳者」のような役割を担います。
一方で、企業側の守秘義務体制も不可欠です。相談者情報の管理や、報告書の保管ルールが曖昧なままでは、逆にトラブルを招きます。そのため、私は顧問先に対して「窓口運用規程」を文書化し、報告ルート・保管期間・削除手順を明文化するよう指導しています。これにより、相談者が安心して利用でき、企業も内部統制の観点から説明責任を果たせる体制になります。
実務的には、外部窓口を「一次対応」、顧問社労士を「二次判断」として機能分担するのが理想です。一次対応では、感情の整理や事実関係の把握に重点を置き、必要に応じて社労士が法的助言を行う。この二段構えが、企業の信頼性を高め、従業員満足度の向上にも寄与します。
外部窓口と顧問社労士の連携は、単なるトラブル対応体制ではなく、「健全な組織文化を育てる仕組み」として機能します。企業が“問題を恐れずに向き合う”姿勢を見せることこそ、最も有効なハラスメント防止策です。形だけの制度ではなく、実際に機能する運用体制を築くためには、社内外の専門家が連携し、経営者・管理職・従業員それぞれが役割を理解することが不可欠です。
今後は、AI分析や匿名アンケートシステムといったテクノロジーとの連携も進むでしょう。しかし、最終的な判断と改善の方向づけを行うのは“人”です。外部窓口が拾った声を、社労士が制度と組織文化に橋渡ししていく。この連携の質が、企業の信頼性と持続的成長を支える重要な要素になると確信しています。
執筆:特定社会保険労務士 鈴木教大(社会保険労務士法人レクシード)