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「最低限の雛形規程」が会社を守れない3つの理由

就業規則を整備している企業の中には、「とりあえずネットで拾った雛形をそのまま使っている」「社労士に最低限の法令対応だけしてもらった」といったケースが少なくありません。一見すると、就業規則があるだけで安心に思えますが、実際には“最低限の雛形規程”では会社を守り切れないリスクが多く潜んでいます。
ここでは、私が顧問として関わってきた企業の実例を踏まえながら、その理由を3つの視点から解説します。


理由1:実態と乖離した規程は「使えない武器」になる

雛形規程は、あくまで一般的な企業を想定して作られた“参考例”に過ぎません。業種・規模・勤務形態が異なる中小企業がそれをそのまま使えば、現場の実態とズレが生じ、トラブル発生時に「規程が適用できない」「逆に従業員に不利と判断される」という事態になりかねません。

実際に、ある医療法人では長年雛形のまま就業規則を使用しており、診療時間変更に伴うシフト変更を命じた際に「規程上の勤務時間と違う」と従業員から異議が出ました。結果として、変更命令の正当性が問われ、対応に多くの時間を費やすことになりました。
このとき、私はまず現行の勤務実態をヒアリングし、「診療時間」「休憩時間」「シフト変更の手続き」を現場実務に即して改定。さらに、労働基準法32条の変形労働時間制を適切に設計し直すことで、以後はトラブルなく運用できるようになりました。

就業規則は「形式」ではなく「実務運用に耐える仕組み」であることが重要です。実態に合わない規程は、会社を守るどころか、逆に弱点を露呈させることになります。


理由2:法改正に未対応=違法運用の温床

雛形規程を長期間放置している企業では、法改正に対応していないケースが非常に多く見られます。特に近年は働き方改革関連法やパワハラ防止法など、労務管理の法的要求水準が急速に変化しています。

たとえば、令和2年施行のパワーハラスメント防止措置義務。これにより、すべての事業主は社内体制の整備と、相談窓口の明確化が求められました。しかし、雛形規程では依然として「職場の風紀を乱した場合は懲戒処分とする」といった抽象的な条文のままで、具体的な行為例や防止体制の定義がないことが多いのです。

私の顧問先でも、雛形規程を放置していた企業が、従業員間のトラブルをきっかけに労働局から是正指導を受けた例があります。調査では「ハラスメント対応の規程が不十分」と判断され、急遽、社内研修と再整備を実施。これにより再発防止策を明文化し、外部相談窓口も設けたことで、労働環境が安定しました。

法改正は「対応しなければ罰せられるもの」ではなく、「企業が信頼されるかを左右するもの」です。雛形のままでは、知らぬ間に法令違反の運用をしているリスクが高まります。


理由3:トラブル発生時の「証拠」として機能しない

労使紛争や退職トラブルの場面では、就業規則の記載内容が重要な“証拠”として扱われます。つまり、会社が従業員に対して行う指導や懲戒、配置転換の正当性を裏付ける法的根拠となるのです。

しかし雛形規程では、「懲戒処分の種類」「懲戒の手続き」「軽微な違反行為に対する指導記録」などの具体的な運用ルールが定められていないことが多く、いざというときに「懲戒の相当性を立証できない」問題が起こります。

実際、私が関与した製造業の顧問先では、無断欠勤を繰り返す社員に対して懲戒解雇を行ったものの、就業規則に「無断欠勤の回数」「処分までの手順」などの明記がなく、解雇理由の妥当性を示せずトラブルに発展しました。結果として、私は会社側とともに事実経過を整理し、後に再発防止のための規程見直しを実施。懲戒に関する「段階的指導」「注意書の残し方」「再教育手続き」を明確に設けました。

雛形の就業規則では、法的根拠としての「精度」が不足しており、裁判や労働審判の場面で“会社を守る盾”として機能しません。


実務対応でのポイント:会社の「体質」に合わせた運用設計

私が顧問先の就業規則を見直す際に重視しているのは、単に条文を整えることではなく、「社風・組織文化・リーダーシップのあり方」に合わせた制度設計です。
たとえば、同じ業界でも、院長が現場をリードするクリニックと、管理職が複数いる医療法人では、懲戒・評価・勤務ルールの最適解が異なります。
また、スタートアップ企業などでは、急速な採用拡大に伴い、雛形の就業規則では想定していない「裁量労働制」「リモートワーク」などへの対応も必要です。

私は就業規則を「経営理念と現場をつなぐ翻訳書」として位置付けています。形式的な法令遵守だけでなく、「どんな会社をつくりたいのか」「社員にどう働いてほしいのか」を反映することで、初めて“生きた規程”になります。


雛形を卒業し、「守れる・育てる就業規則」へ

雛形規程のままでは、会社を守るどころか、リスクを放置しているに等しい状態です。
就業規則は、法律と現場をつなぐ「経営インフラ」であり、放置すればするほど企業防衛力は低下します。

経営環境が変化する中で、就業規則も定期的なメンテナンスが不可欠です。3年に一度の見直しを基本とし、法改正や人事制度変更に合わせた改定を行うことが望まれます。
また、見直しの際には「社員説明会」や「運用マニュアル」の整備も併せて実施することで、従業員理解と現場定着が進みます。

私の顧問先の中には、雛形から脱却し、経営方針を反映させた規程づくりを行った結果、トラブル件数が半減し、離職率が改善した企業もあります。就業規則は「守るための書面」であると同時に、「組織を育てるためのツール」です。


まとめ

最低限の雛形規程は、

  1. 実態に合わず使えない

  2. 法改正に未対応でリスクが高い

  3. 紛争時に証拠として機能しない
    という3つの点で会社を守ることができません。

自社の実態・方針に合わせたオーダーメイドの就業規則こそが、真に会社を守り、社員の安心と信頼を支える基盤になります。


 

執筆:特定社会保険労務士 鈴木教大(社会保険労務士法人レクシード)

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