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医療機関における就業規則の
「休職・復職条項」設計事例

医療機関では、職員の心身の健康状態がそのまま患者対応の質に直結します。そのため、休職や復職に関するルール設計は、単なる「制度整備」に留まらず、「医療安全」と「組織安定運営」に密接に関わる重要なテーマです。とくに医療職は責任が重く、夜勤や人間関係のストレスによってメンタル不調を抱えるケースも少なくありません。そうした中で、休職制度の不備や運用の曖昧さが、結果として労務トラブルに発展する事例も多く見られます。

私はこれまで医療法人を中心に多数の就業規則を設計・改定してきましたが、「休職・復職条項」はどの現場でも議論の中心になる部分です。特に、医師や看護師など専門職の代替が難しい職場では、現場運営と休職者の権利保障とのバランスが極めて繊細です。

ある中規模病院の事例では、看護師がメンタル不調を理由に長期欠勤となり、休職命令の発令を検討した際、就業規則上に「休職期間」や「復職可否判断の基準」が明確でなかったため、対応が後手に回ってしまいました。結果として、病棟の人員配置にも支障が出てしまい、他の職員の負担が増すという悪循環に陥りました。この経験を踏まえ、私は休職・復職条項の見直しを行い、次のような構成を提案しました。

まず、休職の対象事由を「業務外傷病」「業務上傷病」「私傷病」「産前産後」「育児・介護」といった区分で整理します。これにより、制度上の適用根拠が明確になり、休職命令の判断が恣意的にならないようにします。特にメンタル不調の場合は、診断書だけでは復職判断が困難なケースもあるため、「産業医等による意見聴取を行うこと」を条文上に明記しておくことが重要です。

次に、休職期間の設定です。一般的には「勤続年数に応じて3カ月~1年」などとする例が多いですが、医療機関では人員体制への影響が大きいため、「最長1年」かつ「復職見込みのある場合に限る」との条件を設けました。これにより、組織としても復帰の可能性を見極めながら、段階的な対応が取れるようになります。

復職に関しては、医療機関特有の「職務復帰の適格性」が問われます。例えば、患者対応を伴う看護師や放射線技師が体力的・精神的に業務に耐えられない場合、無理な復職は本人だけでなく患者にもリスクを及ぼします。そのため、「主治医の意見書」「産業医の面談結果」「所属長の意見」を踏まえて最終判断を行うプロセスを明文化しました。また、完全復帰が困難な場合には「短時間勤務」「部署異動」「段階的復職」といった選択肢を明記することも実務上有効です。

顧問先のある医療法人では、復職後に再発を防ぐため、社労士・産業医・人事担当者で構成する「復職支援会議」を制度化しました。復職後3カ月間は定期的にフォロー面談を行い、勤務状況を確認します。この取り組みにより、復職後の早期離職が大幅に減少し、現場の安心感も高まりました。特に、周囲のスタッフが「本人の状態を理解した上でサポートする」文化が育ったことが大きな成果です。

また、休職条項を設計する際に見落とされがちなのが、「休職期間満了時の取扱い」です。たとえば、「休職期間満了時に復職できないときは自然退職とする」とだけ記載している規程では、解雇に該当する可能性があり、トラブルの火種になります。実務上は、「医師の診断結果および職場復帰可能性を総合的に勘案し、復職困難と判断された場合には退職を認める」といった表現にしておくことで、法的リスクを回避できます。

私は実際、あるクリニックでこの条文の修正を行いました。以前は「期間満了=退職」としており、復帰の意思を持っていた従業員から「一方的な退職扱いだ」との不満が出ていました。修正後は「医師の所見を踏まえた協議」を経る条文に改定し、双方が納得して退職に至ったことで、紛争を未然に防ぐことができました。

休職・復職制度は、法令上の義務ではなく、あくまで就業規則上の任意規定ですが、実務上は「職員の安心」と「組織の安定」を両立するために欠かせない仕組みです。特に医療現場では、同僚の欠員がすぐに患者対応に影響するため、制度設計の段階から現場の運用を想定しておくことが重要です。私は顧問先で制度設計を行う際、必ず管理者と現場リーダーの両方にヒアリングを行い、「現実的に運用できる仕組み」を確認するようにしています。

最後に、休職・復職条項の運用では「公平性」と「記録」が要です。診断書の受領日、面談記録、本人の意思確認などを適切に残すことで、後にトラブルが発生した際の重要な証拠になります。医療機関では特に、内部の連携不足から対応記録が散逸していることが多く、これが紛争リスクを高める原因になっています。電子化やチェックリストの導入など、運用の仕組みづくりも並行して進めることをお勧めします。

医療機関の就業規則における休職・復職条項は、単なる文面上の整備ではなく、職員のキャリアと人生を支える「安全網」としての機能を果たすものです。適切に設計されたルールが、職員の安心感を生み、組織の信頼を支える基盤となります。

 

執筆:特定社会保険労務士 鈴木教大(社会保険労務士法人レクシード)

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