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就業規則を経営ツールとして活用する考え方

就業規則というと、「法令で定められたから仕方なく作成するもの」「労働基準監督署に提出するための書類」という認識を持つ経営者も少なくありません。しかし、私は顧問先を多数支援してきた中で、就業規則は“企業の経営方針を具体化し、組織を成長させるための経営ツール”として活用すべきだと確信しています。単なるルール集ではなく、経営者の理念・方針を従業員に浸透させ、組織運営の指針となる「経営の設計図」として位置づけることで、就業規則は大きな力を発揮します。

まず、経営ツールとしての就業規則の第一の役割は、「組織運営の共通言語」をつくることです。経営者がどのような価値観で会社を運営し、どんな行動を評価するのかを明文化することで、社員の行動基準が統一されます。たとえば、私が支援したある製造業の企業では、就業規則の冒頭に「企業理念・行動指針」を加えました。そこには「お客様第一」「安全最優先」「チームワークを重視する」などの経営理念を盛り込み、全社員が日常業務の判断に迷わないようにしました。その結果、現場での報連相が増え、ミスの減少につながっただけでなく、管理職のリーダーシップ意識も高まりました。

第二に、就業規則を経営ツールとして活用する上で重要なのは、「経営課題の可視化と制度設計の連動」です。人事・労務の課題の多くは、就業規則に明文化されていない部分に潜んでいます。たとえば、評価制度がなく昇給・賞与が曖昧な場合、社員の不満や離職につながりやすくなります。ある医療機関では「勤務年数が長いほど自動的に昇給する」仕組みとなっており、意欲的な若手が評価されにくい状態にありました。私は経営陣と面談を重ね、評価基準を就業規則に組み込み、「貢献度に応じた昇給」へと設計を変更。これにより職員のモチベーションが向上し、離職率が大幅に改善しました。

また、経営ツールとしての就業規則は、「人材育成の指針」としても機能します。企業は成長する過程で、従業員に求めるスキルや役割が変化します。その変化を制度として反映しないまま放置すると、「頑張る人が報われない組織」になりがちです。私が顧問を務める建設業の中堅企業では、職長やリーダーの育成が課題でした。そこで、職務等級ごとに求められる行動基準を就業規則に記載し、「次の等級に上がるために必要な行動」を明示しました。これにより、社員が主体的に成長目標を立てるようになり、現場の士気が向上しました。就業規則が「キャリアステップ表」としても活用されている好例です。

第三に、経営リスクを未然に防ぐ「ガバナンス強化ツール」としての役割も欠かせません。働き方改革の進展により、労働時間管理やハラスメント防止、メンタルヘルス対応など、企業に求められる法的対応範囲は拡大しています。私の支援先でも、トラブルが起きた際に「就業規則に規定がなかったために対応が遅れた」というケースが複数ありました。特に休職・復職、懲戒処分、兼業・副業などの項目は、実態に即して明文化しておくことが重要です。トラブル対応を通じて感じるのは、就業規則が整備されていれば、感情的な判断に陥らず、冷静かつ公平に対応できるということです。規定は“経営者を守る盾”であり、同時に“従業員を守るルール”でもあります。

一方で、「就業規則を作って終わり」にしてしまう企業も多く見られます。経営ツールとして活かすには、定期的な見直しと社内浸透が欠かせません。法改正対応だけでなく、事業の方向性・組織構造の変化に応じた更新が必要です。私は顧問先との定期面談で、「今のルールが現場で機能しているか」「従業員が理解しているか」を確認しながら、半年〜1年単位で部分改定を提案しています。このプロセスを通じて、経営者自身が「自社の人の動かし方」を再確認し、労務管理の質が向上していきます。就業規則は完成品ではなく、“企業の成長とともに育てていく経営資源”なのです。

さらに、就業規則を「採用・定着戦略」として活かすことも可能です。求職者は企業選びの際、給与だけでなく「働きやすさ」「制度の整備度合い」を重視します。たとえば、介護業界では労働条件が曖昧な事業所ほど人材が集まりにくい傾向があります。私が関与したある介護施設では、就業規則に「有給休暇取得推進」「産育休復帰支援」「ハラスメント防止体制」を明記し、それを採用ページで公開しました。その結果、応募者から「制度が整っていて安心できる」という声が増え、採用コスト削減にもつながりました。就業規則を“見せる化”することが、企業ブランドの向上に直結した事例です。

総じて、就業規則は「経営者の意思を形にし、組織の方向性を示す最強の経営ツール」です。法令遵守のためだけに存在するのではなく、経営戦略・組織文化・人材育成の三位一体で運用してこそ、本当の効果を発揮します。私たち社会保険労務士は、単に法的整備を行うだけでなく、経営者の理念を規程という形で落とし込み、組織の未来を共にデザインする役割を担っています。就業規則を“作る”のではなく、“活かす”発想が、これからの時代の労務管理の鍵になるといえるでしょう。

 

執筆:特定社会保険労務士 鈴木教大(社会保険労務士法人レクシード)

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