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SNSトラブル・副業トラブルを防ぐ
就業規則の工夫

近年、SNSや副業をめぐる労務トラブルが急増している。スマートフォン一つで誰もが情報発信できる時代、従業員のSNS投稿が企業の信用を揺るがす事例も少なくない。また、政府の「働き方改革」により副業が容認される流れの中で、勤務先への報告なしに他社で就労し、情報漏えいや労働時間管理上の問題が発生するケースも増えている。こうしたリスクを防ぐには、就業規則を「禁止」や「制裁」のための文書ではなく、「トラブルを未然に防ぎ、信頼を守るルール」として設計することが欠かせない。

まず、SNSトラブル防止の観点から重要なのは、投稿内容の「私的領域」と「職務関連領域」の線引きを明確にしておくことである。たとえば、従業員が個人のアカウントで職場の出来事や内部情報を投稿した結果、炎上に発展することがある。このようなケースに備え、「企業秘密や顧客情報、職場内の出来事を特定できる内容の発信を禁止する」と明記しておくことが必要だ。さらに、懲戒規定と連動させ、悪質な場合には懲戒処分の対象となる旨を明示することで、抑止効果を高める。

実際、私が顧問を務める医療機関では、スタッフが患者の来院状況を匂わせる投稿をしたことがきっかけで、患者家族から抗議を受けた事例があった。投稿者本人は「特定されると思わなかった」と悪意はなかったが、職場の信用に大きな傷を残した。この事案を受け、就業規則に「個人のSNSを含め、患者・利用者・取引先など特定可能な情報の発信禁止」を新設。さらに、入職時研修でSNSリテラシー教育を実施することで、再発を防止した。ルールの明文化と教育の併用こそが、実効性あるリスク管理の鍵である。

次に、副業トラブルについてである。政府方針として副業・兼業を推進する流れは止まらないが、現場では依然として多くの課題が残っている。特に、医療・介護・IT業界などでは、他社での業務が自社業務と競合したり、過労・情報漏えいの原因になることがある。企業が「副業を原則禁止」と定めるのではなく、「会社への事前申告制」として管理する仕組みを整えることが現実的だ。

私が関与した製造業のケースでは、従業員が週末に他社でアルバイトをしていたことが発覚し、長時間労働による体調不良で欠勤が続いた。会社は「私生活の自由」として黙認していたが、結果的に生産ライン全体に支障が出た。このケースでは、副業申請制度を導入し、就業時間外であっても本業への支障が懸念される場合は許可しない方針を規定した。併せて、健康管理面での確認(労働時間の通算管理)を就業規則に明文化し、必要に応じて産業医面談を実施できる体制を整えた。

さらに、副業の形態によっては、情報漏えいや利益相反のリスクも存在する。特に医療・福祉分野では、他院への勤務が患者情報や診療ノウハウの流出につながる懸念があるため、「同業他社での副業は原則禁止」とした上で、「ただし理事長の許可を得た場合を除く」との例外規定を設けておくとよい。こうした柔軟なルール設計は、時代の流れに沿いつつも企業を守るバランスを取る上で極めて有効である。

また、副業の拡大に伴い、労災保険や社会保険の扱いにも注意が必要だ。複数事業所での就労が一般化する中で、通勤災害の範囲や保険給付の適用関係が複雑化している。就業規則上で「副業に伴う事故・トラブルについては本人の責任において行う」といった一文を設け、企業の責任範囲を明確にすることも、無用な紛争を防ぐうえで重要である。

SNS・副業トラブルを防ぐ就業規則を設計するうえで、もう一つのポイントは「懲戒規定との整合性」である。たとえば、SNSへの不適切投稿や無断副業が発覚した場合、会社としてどのような処分を行うかを事前に定めておくことが必要だ。曖昧なまま処分を行うと、懲戒の有効性を争われるリスクがある。懲戒事由として「会社の信用を損なう行為」「業務命令に反する副業」「会社の機密情報を漏えいした場合」などを列挙しておくことで、法的にも運用面でも安定した対応が可能になる。

さらに重要なのは、規程を整備しただけでは不十分だという点である。従業員への周知と教育が伴って初めて効果を発揮する。従業員の理解が進むことで、トラブルを未然に防ぐ文化が根づいていく。

最終的に、SNSや副業を完全に制限することは現実的ではない。重要なのは、「企業と従業員が互いに信頼を保ちながらリスクを管理する仕組み」を構築することにある。就業規則はその基盤であり、企業理念や職場文化を反映させる「経営ツール」として運用すべきである。トラブルが起きてから慌てて規程を見直すのではなく、時代の変化に合わせて定期的に改訂し、現場の実態に即したルールへと進化させていくことが求められる。

 

執筆:特定社会保険労務士 鈴木教大(社会保険労務士法人レクシード)

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