〒322-0039 栃木県鹿沼市東末広町1940-12 シマダヤビル3F(駐車場:あり)

受付時間

9:00~17:00
定休日:土曜・日曜・祝日

お気軽にお問合せ・ご相談ください

0289-77-7011

問題社員対応で「注意書」を残すべき3つの理由

組織において、社員の勤務態度や言動に問題が生じた場合、経営者は感情的にならず、冷静に「注意」と「記録」を残すことが重要です。中でも「注意書」は、トラブル予防とリスク回避の観点から極めて有効な手段です。単なる口頭注意ではなく、書面で残すことにより、後の証拠として機能し、再発防止にもつながります。ここでは、社労士として多くの企業を支援してきた経験から、「注意書」を残すべき3つの理由を具体的に解説します。


1.「注意書」は会社を守る“証拠”となる

まず第一に、注意書は労務トラブル発生時の「証拠」として決定的な意味を持ちます。
問題社員の言動に対して、経営者がどのような対応をとったのかを示す記録がなければ、後に「注意された覚えがない」「指導を受けていない」と主張されるリスクがあります。

実際、私が顧問を務めるある医療機関では、勤務中のスマートフォン使用が常態化していたスタッフに対し、院長が口頭で何度も注意をしていました。しかし改善が見られず、最終的に解雇を検討する段階で、当人から「一度も正式に注意を受けていない」と反論があり、対応が難航しました。結果として、院長が行ってきた指導内容を証明できず、再指導と就業規則の再整備を行う必要が生じました。

もしこのとき、口頭注意に加え「注意書」を交付し、本人の署名を得ていれば、「是正を求めたが改善されなかった」という事実を客観的に示すことができたでしょう。
書面の存在は、会社が適切に指導を行っていたことの証明となり、懲戒処分や退職勧奨に進む際にも法的リスクを大幅に軽減します。


2.「注意書」は本人への“自覚喚起”の手段となる

第二の理由は、注意書が本人の「気づき」を促し、再発防止のきっかけになる点です。
多くの問題社員は、自分の行動が職場にどの程度の悪影響を及ぼしているかを自覚していません。
上司から口頭で注意を受けても、「その場をやり過ごせば終わり」と軽く受け止めるケースが多いのです。

私が対応した製造業の顧問先では、遅刻を繰り返す社員に対し、何度も口頭で注意しても改善が見られず、職場の士気が低下していました。そこで社長と相談のうえ、正式な「注意書」を交付しました。文面では、「〇月〇日に遅刻が発生した」「今後同様の行為を繰り返す場合は懲戒の対象になる」ことを明記し、本人に署名を求めました。

この対応をきっかけに、本人は「これは本当にまずい」と自覚し、以後は時間厳守で出勤するようになりました。
注意書は罰するためのものではなく、本人に「自分の行為が問題である」という現実を突きつける“警鐘”として機能します。文書として残すことで、曖昧な認識を具体的に変える効果があるのです。


3.「注意書」は職場全体への“メッセージ”になる

第三の理由は、注意書を残すことが職場全体に対して「会社はルールに基づき公正に対応している」というメッセージになることです。
注意を放置していると、他の社員が「注意されても何も起こらない」と感じ、職場の秩序が崩れていきます。逆に、問題行為に対して文書で明確に指導が行われていることが周知されれば、自然と規律意識が高まります。

ある歯科クリニックでは、無断早退を繰り返すスタッフに対して「注意書」を交付したところ、他のスタッフが「先生はきちんと見てくれている」と感じ、勤務態度の改善につながりました。結果的に、職場全体の雰囲気が引き締まり、ミスも減少しました。

「注意書」は、問題社員を個別に指導するだけでなく、組織全体に「会社は公正な姿勢で臨んでいる」というメッセージを送るツールとしても効果的です。


実務上の留意点

注意書を作成する際には、以下のポイントに注意する必要があります。

  1. 事実関係を正確に記載する
     感情的な表現や主観を避け、日時・内容・影響を客観的に記録します。

  2. 本人への説明を丁寧に行う
     「懲戒を目的とした書面」ではなく、「再発防止と改善のための指導書」である旨を伝え、納得のうえで署名を求めることが望ましいです。

  3. 社内での保存・管理を徹底する
     注意書は個人情報に該当するため、保管場所や閲覧権限を限定し、個人情報保護の観点からも慎重に扱う必要があります。

私の顧問先の中には、「注意書の雛形」を用意し、指導時には必ず社労士が内容を確認する運用を導入している会社もあります。
これにより、指導の一貫性が保たれ、法的リスクを最小化しながら労務トラブルを防止しています。


「注意書」を出すタイミング

注意書を発行するタイミングは、「問題行動が繰り返されたとき」「他の社員に悪影響が及び始めたとき」「改善が見られないとき」などが目安です。
いきなり交付するのではなく、まずは口頭注意→面談記録→注意書→けん責等の懲戒処分といった段階的な対応が望ましいです。
注意書は懲戒処分とは異なり、あくまで「是正指導」の位置づけであるため、段階的に積み重ねることが重要です。


社労士としての現場対応

これまで多くの顧問先を見てきた中で感じるのは、「トラブルの多くは、初期対応の曖昧さから生じる」という点です。
注意すべき行為を見過ごしたり、「あとで言えばいい」と放置しているうちに、問題社員の行動が常態化してしまう。
そしていざ退職や懲戒に発展すると、「なぜそのときに正式な指導をしなかったのか」と責任が問われるのです。

私自身、初期対応を明文化しておくようアドバイスしたことで、後のトラブルを未然に防げた事例を多数見てきました。
「注意書を出す=厳しい会社」ではなく、「ルールを守る会社」であることを社員に示すことが、健全な職場文化の形成につながります。


まとめ

問題社員への対応において、「注意書」を残すことは、単なる形式ではなく、会社を守り、社員を育て、組織を整えるための重要な経営行為です。
書面での記録は、経営判断を支える根拠であり、感情論に流されない公正な対応を支える仕組みです。
社労士として多くの現場を見てきた中で確信しているのは、「注意書をきちんと運用している会社ほど、職場の風土が整い、社員が育つ」という事実です。

ルールを守る文化を根づかせる第一歩として、注意書の運用を日常のマネジメントに取り入れることを強くお勧めします。


 

執筆:特定社会保険労務士 鈴木教大(社会保険労務士法人レクシード)

お気軽にお問合せ・ご相談ください

お電話でのお問合せ・ご相談はこちら
0289-77-7011
受付時間
9:00~17:00
定休日
土曜・日曜・祝日